AOT原作以前19話でハンネスさん登場させましたが、それより以前にとりあえずハンネスさん出したいな、どっかに突っ込もうと思って書いた文章はまるっと没になりました。
跡形もない。けど内容気に入ってないわけじゃないから雑にここにぶん投げときます。
ホントはweb拍手のお礼文にしようと思ってたけど、使っているプラグインの関係でページ遷移ができないので野晒し。
「あー、ハンネスさーん」
調査兵団本部で会議があり、帰ろうと門に向かった時、馴染みのある声に振り返る。
「おう、ユーリ、久しぶりだな」
大きく手を振る、昔から知っている子供。気がつけばだいぶ成長して、今では調査兵団の一員として1年以上無事に生き抜いている。
調査兵団に入ると聞いた時は全力で反対したけれど、意外と頑固な面のある彼女は当然のように調査兵団に入団した。以来、彼女の姿を確認するたびに安堵する気持ちが湧き上がる。
「元気そうだな」
「元気元気。ハンネスさんはちゃんと働いてる? 飲みながら壁工事しちゃダメだよ」
「しねぇよ、このやろ」
ぐいと抱きこんで髪をぐちゃぐちゃにしてやれば、やめてぇと呑気な笑い声が響く。ユーリは4人の中でも、シガンシナが襲撃される前と後とで雰囲気がもっとも変わらない。
けれど、ユーリは元々自分を押し殺して朗らかに笑ってみるのが得意なタチだった。幼いうちに両親を亡くしたアルミンの母親がわりになろうとしたからだろう。祖父に心配をかけたくない、アルミンに弱いところは見せられないと、こっそりと泣いているのを、ハンネスは何度も慰めたことがある。
ユーリが兵団に入ってからは会う機会も減ってしまったが、無理していないかが常に気がかりではあった。
「こないだ、久しぶりにアルミンたちと会ったの」
「そうか、あいつらも元気してたか?」
「うん、すごい成長してた」
「…あいつらも訓練兵になって、もうすぐ3年だもんな」
へへ、と笑うユーリの頭を撫でる。
本当は危険な場所になどいないで、こうして笑っていて欲しいと思う。せめて、少しでも心穏やかに過ごせる時があればと思うが、調査兵団に所属している以上はそれも難しいだろう。
ハンネスがせめて何か、菓子でも買ってやろうかと考えていた時だった。
「ユーリ」
手のひらに収まってしまいそうな小さな頭。その感触がふっと消えた。
何かと思い顔を前に向ければ、ユーリの襟首を掴んで引き寄せる人類最強の姿。
「俺の部下に何か用か」
今にも射殺しそうな目で睨みつけられて、思わず気圧される。ハンネスはリヴァイと面識がないわけではない。けれどその時はお互い、さほどの興味もなく会話を交わしただけだ。
その時とはまったく異なる。何が、そんなにーー
「え、兵長?」
「テメェも何してやがる」
ふいとユーリに視線を向けたリヴァイの雰囲気が、途端にゆるむ。言葉はキツいし顔も不愉快そうだというのに、何かが違う。
「あ、あれっ、今日もう訓練終わりましたよね? ちょっとだけなら良いかと思ってお話を…」
「…」
「うぐっごめんなさいごめんなさい」
襟首を掴む力が強まったようで、ユーリはリヴァイの手を軽く叩きながら謝罪をしている。
「お、おいおい、リヴァイ、首離してやれ」
慌てて止めようと手を伸ばせば、それを避けてユーリが後ろに放りなげるように解放される。そしてまたリヴァイの鋭い視線がハンネスに突き刺さった。
威嚇という言葉が浮かぶのと同時に、一つの噂が頭をよぎる。人類最強の兵士であるリヴァイに女ができた、と。
まさかという予想に、ハンネスは瞠目してリヴァイとユーリを交互に見つめた。
「おいおい、マジか…」
「あ?」
感じる敵意は、まさか、嫉妬か?
「兵長、すみません。今日もしかして、書類整理のお約束をしていた日でしたっけ?」
襟元を整えながら、ユーリがおずおずと尋ねた。いやそういう問題じゃねぇだろと言いたくなるのをぐっと我慢する。
「…あぁ。用がねぇなら先に行ってろ」
「はい。…ハンネスさん、またね」
「ユーリ」
「はい」
小さく手を振り去っていこうとするユーリをリヴァイが呼び止める。振り向いたユーリの髪に手を伸ばし、リヴァイが優しく撫でた。
「髪くらい直せ、みっともねぇ」
「うっ…はい」
ユーリは項垂れ手櫛でハンネスがかき混ぜた髪の毛を整える。それをリヴァイは愛しげ、というには仏頂面だが、見守っている。
「あー、その、確認するが、お前ら付き合ってるのか?」
聞けば、ユーリの手がぴたりと止まる。
「ははははははハンネスさん! なんて! こと! 言うの!!」
ばっと顔を上げたユーリは、顔を真っ赤にして平手でハンネスの腕を叩く。対してリヴァイは腕組みをして無反応だ。が、まんざらでもないといった様子か。
片手で顔を覆い、ハンネスは重くため息をついた。成長したとは思っていたが、まさかあのリヴァイ兵士長とそういう仲になるとは。今は否定しているが、この様子ではそれも時間の問題か。
近場に大事に思い合える相手がいるのは良いことだ。けれど、昔から知っている分、実の娘のように思っているユーリにそんな相手がいるというのは複雑な気分だった。
誤解されたら申し訳ないなどとのたまう彼女を宥めて、やることがあるならさっさと行けと追い払う。顔を押さえながら小走りに去っていくユーリを見送り、ハンネスはリヴァイに向き直った。
「惚れた女と話すために、仕事を押し付けるのはどうかと思うがな、兵士長さんよ」
「…押し付けて、ねぇ…」
苦虫を噛み潰したような表情で唸る彼は、自覚があるらしい。あのリヴァイが、まるでそこいらの青二才のようだ。つい昨日までは『頼りになる人類の希望』と見ていたのに、今はやや頼りない印象に苛立ちが募った。
「あの子は、俺にとって娘みたいなもんだ」
「…」
ハンネスよりも頭一つ分以上低い位置にある黒髪を見つめる。
「小さい頃から弟の親代わりをして、ひとりでなんでもやることに慣れてる。人の機微に敏感で、誰にでも寄り添ってやろうとする」
「…あぁ」
「惚れているなら、あいつを、ひとりにしないでくれ」
ぐっと肩を掴み、そう言えば、グレーの瞳が真っ直ぐとハンネスを見返した。
「壁外で生きる以上、約束はできねぇ。だが、俺自身が後悔するマネは、しない」
それは、リヴァイにとって最大限誠実な答えだったのだろう。それでは足りない、人類最強だというのなら、絶対に死なないし死なせないと誓ってほしいと言いたくなる気持ちを堪えた。たとえリヴァイであってもそれを約束できない場所が、壁外なのだ。
「あぁ、頼むぜ、兵士長さん」
ユーリだけじゃない、エレンたちもきっと、来年にはいつ死ぬとも知れない場所に身を置くのだろう。
ハンネスは幼い顔たちを思い浮かべ、深く息を吐いた。
※ちなみにこの日兵長の仕事の手伝いは約束してない、設定。
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