デートであげるものを最初髪飾りとして書いてました。
が、調査兵団で髪飾りをあげるのもどうなの?どうなの??どうなの???
と散々悩んだ結果、却下しました。
それに関連したボツ3シーン。原作以前の27、29の冒頭、29.5話にあたります。ボツをぽいって上げてるだけなので、唐突に話が飛びます。
***
ふと一つの髪飾りが目に入った。まろやかに輝く銀色のバレッタ。すごく凝った装飾がなされているわけではないが、繊細な彫刻が施され、1カ所だけ蒼色の石が嵌め込まれていた。
「…」
「…お前に似合いそうだな」
ユーリの視線を追ったリヴァイが言う。その言葉にユーリは照れながら否定した。
「お、お世辞でも嬉しいです。でも、ああいうのはもっと大事にできる子がつけたほうがいいです。私じゃすぐ壊しちゃいそうで」
「…わざわざ世辞なんて言わねぇよ」
「え?」
「おい店主、これをくれ」
「えっ兵長!」
ぽつりと零された言葉を拾うよりも早く、リヴァイが店主に声をかける。ユーリが慌ててそれを止めようとするが、彼はすでに会計に入っていた。
「袋はいらねぇ」
「ま、待ってください、買ってもらうわけには…あっまさか兵長つけますか!? 私、つけてあげいたっ」
「馬鹿か。どうして俺がつけるんだ」
ピンと跳ねられた額を押さえ、涙目でリヴァイを見つめる。心底呆れたと言った表情にあわあわと言い募る。
「で、でも…あっもしかしてどなたかへのプレゼント…」
言えば、はあーと大きくため息をつかれる。
「あっじゃねぇ。もういい。向こう向け」
「はいっ」
言われるがまま、リヴァイに背を向ける。
後ろから伸びた手にびくりと体がはねる。リヴァイの指がサイドの髪を掬い、耳を掠める。その感触にまた体を跳ねてしまいそうなのを堪えていると、パチリと音がした。リヴァイがユーリの肩を掴んで体の向きを変える。目の前にいる彼は、真剣な表情でユーリの髪をいじっていた。
「…悪くねぇ」
満足したのか、口の端を上げて言った。そしてまたユーリの手を取って歩き出す。
自分に、くれるということだろうか。ユーリの姿を見て嬉しそうにしたリヴァイの顔を思い出すと、貰う理由がないとか自分の分くらいお金を出すとかいうのも野暮に思えて。
「…兵長」
「あ?」
「大事にします」
はにかみながら礼を言ったユーリに、リヴァイは満足そうに頷いた。
***
手元の銀のバレッタを見つめて、ユーリは唸った。
貰った翌日の訓練でつけなかったら、気に入らなかったか、と口を曲げたリヴァイに尋ねられた。もちろん気に入っていないわけがなく、もはや宝物と言えるそれを訓練で壊したり汚したりしたくないと伝えたら、リヴァイはダメになったらまた買ってやると表情を和らげた。
それは流石に申し訳ないので、やはり訓練ではつけないが、非番あるいは実践訓練のない日には着けるようにしている。
そして今日はそれ以来初の壁外遠征だ。
バレッタを、お守り代わりに持って行きたい。けれどもしも落としたら。
悩んでいるうちにも時間は過ぎていく。まさか遠征の日に遅刻だなんて、たるんでいるにも程がある。
(よし…!)
拳を握り、ユーリは立ち上がった。
***
苛立つように舌打ちして目つきは鋭いが、ユーリの頬に触れる指先は優しく、声音は心から心配してくれているものだ。そんな彼に誤魔化しをするのは不誠実な気がして、ユーリはおずおずと口を開いた。
「あの、情けない、申し訳ない、話なんですが」
「あぁ」
「…兵長から頂いたバレッタを、失くしてしまいました……」
しゅん、と肩を落とす彼女を見て、リヴァイは「あぁ」と小さく言った。
「これか」
そう言って差し出されたのは、ユーリが探し求めたもので。
「これです!! ありがとうございます! え、あれ、これどこにありましたか?」
「俺の服に引っかかっていた」
「そうなんですね…良かった…」
心底安心したように笑い、バレッタを胸に抱きしめる。そんなユーリの頬を両手で包み込んでリヴァイは顔を近づけ、一瞬止まってから額にキスを落とした。
「そんなに大事だったか?」
「ぁ、は、はい…」
額を押さえ、目元を染めながらユーリは答える。一瞬、唇にキスされるのかと思った。そう自惚てしまいたい。
けれどきっと、リヴァイの行為は手間のかかる妹に対するようなものだ。でも、もしかしたら。
期待とそれを打ち消す言い訳がぐるぐると巡る中、ユーリはなんとか話を続ける。
「兵長に頂いた、ものですから…」
「…そうか」
リヴァイは口元を緩める。
「あまり心配かけさせてくれるな」
「い、いつもいつも、ご心労おかけいたします…」
眉を下げたユーリにリヴァイが手を差し出す。
見上げればリヴァイの瞳は優しく緩んでいて、その表情にきゅうと胸が締め付けられる。こうして甘やかされることが、たまらなく嬉しい。
「用事が済んだのなら、部屋に戻るんだろう。転ばねぇように隣で見ててやる」
「…ありがとうございます」
ふにゃりと笑って、ユーリは差し出された手を取った。