リクエスト頂いて書きました思い込みpining、リヴァイ視点を書いたらあまりに肉食になったためボツになったもの。ふたりで2次会〜くっつくまで
***
ユーリが入社し、学術部に配属された頃。リヴァイは既に部長に昇進することが内定していた。なんなら彼自身が入社した頃から学術部の中心を担うことが期待されていて、そのために他の部署でも経験を積んで、学術部に戻ってまた経験を積んだ。
そんな中で入った新入社員の教育係は、リヴァイの他にグンタも候補に上がっており、むしろ彼の方が有力だった。ただ、リヴァイ自身が改めて新人に教えることで業務内容を一から整理してから全体を包括する立場になりたい、と、ある種の我が儘を言ったのだ。
ユーリは端的に言うなら、素直で可愛い新人、だった。そして何より、真面目で人一倍努力家だった。できる限り自分で調べ、それでもわからなければリヴァイに尋ね、進行中の作業と直接関わりがないことであっても今後の役に立ちそうなことを率先して勉強していた。
最初から飛ばしていては身が保たないだろうと息抜きがてら食事や飲みに連れ出して、会話を重ねるうちに、程良い距離感とくるくると変わる表情、柔らかい声に、気がつけば彼女に落ちていた。
無意識に目で追いかけて、理由をつけてユーリに声をかけて。ただ、ユーリが周りに馴染んで他の人といる時間が増えるのにあわせて、その機会を得るのが難しくなっていった。教育係という名目を失うと尚更だろうとは思ったけれど、ある程度親しくなれたのだから、食事に誘ったりしても違和感はないだろうと思っていた。
だがそんな目論見も虚しく、ユーリが男に抱きしめられているのを見た。
部署の飲み会で解散した後、送るために声をかけようとしたけれど、その前にほろ酔いといった男がやって来て彼女を抱きしめたのだ。
変質者ならすぐに蹴り飛ばそうと思っていたが、ユーリの名前を呼んでいたし、ユーリ自身もその男を知っているようだった。こんな場所で抱きつかないでと怒ってはいたけれど、親密な様子だった。
連れ立って帰って行くふたりに正直黒い感情は湧いたが、既に恋人がいて、幸せだと言うのならそれを邪魔することはできない。
朗らかに丁寧な対応をするユーリはMRからも人気が高く、なんなら病院に説明会をしに行った先で、医者に言い寄られることもあると聞いた。そしてそれらすべて素気無く断っているというから、恋人との関係が良好なのだろう。
もっと早く出会えていれば違っただろうかと女々しく考えながらも、大人らしく、彼女の幸せを願うに徹した。
そうして2年。上司と部下としての適切な距離を保ち、ユーリが欲しいという情動に耐え続けて発覚した事実。
兄。
恋人などいなかった。
大きな勘違いをして2年も無駄にしたのかと思うと、脱力しそうだった。
ユーリが告白を断り続けているのが惚れた相手がいるからだと言うのなら、彼女も随分と長く片想いをしていることになる。その理由が何かはわからないが、つまり十分にチャンスはあるということだ。不毛な片想いを続けるよりも、自分に愛される方が幸せだと思わせればいい。
*
チーズに爪楊枝をぷすりと刺して口に運ぶ。ふにゃふにゃと嬉しそうに頬を緩めたユーリに、ここを選んで正解だったと悟る。
伊達に2年も片想いをしていたわけではない。チーズが好きなことも、でもお洒落過ぎるバーは緊張してしまうから、もう少し気安く飲めるところの方が好きなことも知っている。
……彼女が好きそうなところを探していたわけではないが、どこか店に出向く度、彼女が好きそうかを判断してしまってはいたのだ。
「ここのチーズ、美味しいですね」
にこにこと笑顔を見せるユーリについ目元が緩む。
ユーリは酒に特別弱いわけではないが、強いとも言えない。しかし甘い酒は好きで、所謂レディキラーと言われる酒も、ある程度安心できる相手とだと飲むようだ。
飲み直しとリヴァイが誘った先で彼女が一番最初に頼んだのもスクリュー・ドライバーであり、気を許せない相手だと思われていないことには安心する。が、同時に品行方正な上司としか思われていないことを思い知り、複雑な気持ちになる。
2年も無駄にしたんだ。今更時間をかけてじっくり落とそうとは思わない。そのためにも多少は酒で開放的な気分にはさせたいが、それに溺れさせて酒のせいだと言い訳されたくもない。
その辺りはユーリの様子を見てある程度で制止するかと思いながら、リヴァイは自身も適当に頼んだ酒に口をつけた。
「あの、リヴァイ部長」
「なんだ」
手にしたグラスの水滴を拭うように擦りながら、ユーリがリヴァイを上目遣いに見た。既にアルコールが回り始めたのか、頰が薔薇色に色付いている。
恋人がいるというストッパーがなくなり、今すぐ押し倒したい気持ちに駆られるが、酒ごと飲み下した。
「その…もしかして、私に黙っていること、ありませんか?」
「……」
ユーリの言葉に、思わず黙り込む。
ユーリは場の雰囲気を察するのには長けているが、ここまで勘が良かっただろうか。それとも、上手く隠せていると思っていたけれど、自分の気持ちがあからさまだったか。
ユーリは少し潤んだ大きな瞳でリヴァイを見つめている。
どちらにせよ、多少強引にでもひとりの男だと意識させる必要がある。今日フリーだと知って今日行動をするというのも計画性がないが、どうせ早いか遅いかの差だ。
こんな、襲ってくれと言わんばかりの愛らしい顔をして切り込んでこられて、それを跳ね除ける理由などもはやない。
いいだろう、ならばさっさと言ってやる、と口を開いた。
「あの、部長が聞いた噂は多分、大体誤解です」
「……は?」
リヴァイより僅かに早く口を開いたユーリが、脈絡のないことをのたまった。
「あの、きっと、男遊びしてるとか、玉の輿狙ってるとか、イケメン好きとか、そんな感じの噂ですよね? その、本人が言っても信用できないかもですけど、ホントに、そんなことなくて…信じて欲しい、です」
何を言っているのかが理解できず、リヴァイは眉を顰めた。
「……誰もそんなこと言ってねぇと思うが」
「えっ、でも、部長さっき難しい顔して…私の悪い噂があるから、気遣ってくださったんですよね? その、噂自体は多少時間が経って収まるのを待つしかないという面があると思うんですが、部長にも誤解されていたら嫌だな、と思って…」
恥ずかしそうに目を伏せながら、ユーリは眉を下げた。
その仕草も可愛らしくてそそる。が、発想はよくわからない。
「……少なくとも俺はそんな噂は聞いたことねぇし、そんな風に思ってもねぇから、安心しろ」
「本当ですかっ」
ぱあっと顔を輝かせたユーリが安心したように笑って、グラスに口をつけた。空になりそうなのでメニューを渡せば、ご機嫌に選び始める。
次に選んだのはアレキサンダーで、これまた飲みやすさの割にアルコール度数が高い酒だ。
そんなに持ち帰られたいのかと口に出そうになったのを押しとどめた。
結局気持ちを伝える機会は逸して、ただユーリとの心地良い会話が続いていく。
「んーと…」
3杯目を選んでいるユーリの目は未だアルコールのページに向いている。
「ユーリ」
「はい…?」
とろりと微笑まれて、このまま飲ませて連れ帰りたい衝動に駆られる。けれど望んでいる関係はそういうものではない。その場の勢いではなく、本気だということを理解させる必要がある。
「これ以上はダメだ。ノンアルにしろ」
そう言って手を伸ばし、彼女の上気した頰を包み込む。少しだけ耳朶にも触れるようにすると、ユーリの身体がびくりと跳ねた。先程までよりも一層顔を赤くしたユーリが戸惑ったように目を泳がせる。
「酔っ払って顔が赤い。自分でもわかるだろ? ほら、脈も…早い」
もう片手でユーリの手首を掴めば、早いリズムで脈打つ拍動が伝わってきた。
呆然としたように真っ赤な顔でリヴァイを見つめるユーリにふっと笑う。
悪くない。酒の力を借りて、吊り橋効果のような原理を利用しているが、それでユーリが恋だと勘違いしてくれるなら儲けものだ。
「ユーリ」
「ぁ…は、はい…あの…烏龍茶、に、します…」
動揺をそのままに、震えた細い声で呟いたユーリに、リヴァイは気分良く笑う。
今まではただの上司であろうとした。ユーリの中でもそうでしかない。けれどその必要がないのなら、その印象を突き崩し、男女のものに塗り替えてやる。
幸いユーリが自分に抱いている感情は好意か嫌悪かで言えば好意だ。少し距離を詰めたくらいで拒絶はされない。
ユーリの頬に触れていた手をするりと顎へと滑らせてから手を放した。
「……良い子だ」
そう囁いた声には、欲が滲んだ。
*
酔い覚ましに歩かないかと尋ねると、ユーリは笑顔で頷いた。当然家まで送っていくつもりではあるが、今日はそこまでだろう。……誘いがあれば当然乗るが、そこまで期待はできない。
それまでに、どれくらい近づこうか。
「あの、今日はありがとうございました」
隣で笑顔を見せたユーリに口元が緩む。ユーリは頬が上気していて動きが少し緩慢だけれど、足取りがおぼつかないという程ではない。酒を止めたタイミングは正解だったようだ。
「いや、遅くまで付き合わせた」
「ふふ…むしろ部長とたくさんお話できて、楽しかったです」
ユーリが両手を合わせてふにゃりと笑う。こんなに近くで無防備に笑う姿を見るのも久しぶりだ。正直、可愛くてたまらない。
「部長こそ良かったんですか? こんな時間まで。彼女さん、とか」
「あ? そんなもんいねぇよ」
「えっ! 部長、素敵だからてっきり…」
驚いたように俯かせた顔を上げたユーリに、少し悩む。『素敵』か。悪くはないが、言葉の距離感を考えると、やはり上司としての印象のほうが強そうだ。
もう少し踏み込みたい。
「……俺もお前と同じだ。惚れてるやつがいる」
「そ、そうなんですか。部長なら、誰でも喜んでOKしそうですけど…」
その言葉に自嘲気味に笑う。
「お前にそう言われると自信はつくが…2年も恋人がいると勘違いして手をこまねいた大間抜けだからな、俺は」
「……? そう、なんですか?」
こてりと首を倒したユーリは、それが自分だとは思わないらしい。自分がユーリに恋人がいると勘違いしていたことはわかっているだろうに、繋げることすらしないのは意識もしていないからか。
「でも、勘違いだったなら良かったですね! 部長ならきっと大丈夫ですよ」
「…そうだな。諦める気は、ない」
にっこりと笑いながら、高揚したように言うユーリ。無邪気に恋愛話を楽しむ女子でしかない彼女を見据えて告げる。
2年、手に入らないと思ってもなお捨てられなかった想いだ。チャンスがあると知って諦めることなどできるものか。今は意識をしていなくとも、誰でもOKだとか、大丈夫だとか言うのなら、その責任をとってもらおう。
笑顔で頷いたユーリが足を踏み出したとき、ぐらりと体勢を崩した。
「ひゃっ…!」
「ユーリ!」
倒れそうになるユーリの身体を引き寄せる。手に触れた肩は薄く、抱き寄せている身体は細いのに柔らかい。すぐ近くにある頬は薔薇色に上気していて、驚いたように見開かれた大きな目は少し潤んでいる。
……今すぐ食べてしまいたい。
「酒は2杯で止めたはずなんだが、結構酔っ払ってんのか?」
「い、いえ…石を踏んでしまって…すみません…」
できる限り欲を抑えて言えば、ユーリが動揺した声で答えた。
この体勢になったのは正直好都合だ。転びかけたことやアルコールであまり余裕もなさそうだし、このままつけこませてもらおうか。
礼を言って離れようとするユーリの肩を掴む手に力をこめる。
「…なぁユーリ」
「ひゃい! あっいやっ、すみません…!」
囁くように呼べば過剰に反応したユーリに気分が良くなる。モテる割に男慣れしていないらしい。その様子につい笑いをこぼすとユーリは恥ずかしそうに視線を彷徨わせた。先程までよりも頬が紅潮している。
それで良い。隣りにいるのは、自分を抱き寄せているのは女としてお前を欲している男なのだと理解しろ。
「俺にしねぇか」
「……へ」
言いながらぐっと抱き寄せる。
「お前の魅力もわかんねぇ男なんて忘れさせてやる」
不毛な片思いなんてやめちまえ。
「お前が惚れてる相手が誰だかは知らねぇが、俺も出世は早いほうだし、悪くねぇと思うがな。……俺が嫌いなわけじゃねぇなら、試しに付き合ってみればいい」
「ぶ、ちょう」
戸惑って呟いたユーリの顔を覗き込む。あぁ、悪くない。呆然と自分を見つめるユーリの目は零れそうなほど大きく見開かれている。そこに映るのは拒絶ではない。
「リヴァイ。名前で呼べ、ユーリ。お前の面倒を見ていた頃は、そうしてたろ」
「り、リヴァイさん…」
誘導してやれば、ユーリがぼんやりとした調子で返す。突然こんな風にされて、思考が追いついていないのだろう。されるがままの彼女の様子に自然と口角が上がった。
「あぁ」
ユーリの頬を撫でてそのまま包み込む。熱を灯す頬は暗がりの視界以上にユーリの動揺を伝えた。
「ユーリ…」
「っ…」
名前を呼びながら顔を近づけるとユーリが息を呑んだ。
頬に添えている手に力はこめていない。けれど彼女は視線を逸らすことも、リヴァイを突き飛ばすこともしない。
本気で嫌がるようなら解放してやるつもりだったけれど、そんな様子がない。まるで熱に浮かされたようにリヴァイを見つめている。
――もしかしたら、片思いをし続けることが嫌になってきているのかもしれない。
「逃げねぇのか?」
逃げねぇだろ、と思いながら囁く。そうするならもうとっくにしているはずだ。ほんの少し動けばキスできる距離にまできて動かないなら、もうほとんど了承だ。
そのまま流されればいい。誰よりも愛して、どろどろに甘やかして、他の男なんて見れないようにさせてやる。
「ぁ……」
すぐ近くにあるぷっくりとした唇の隙間から、可愛らしく零れる声。
「――なら、俺に都合よく解釈するぞ」
それでも最後に逃げられるようにと与えた隙にも彼女が動かないのを確認して、唇を重ねた。
「……っ」
ただ静かに唇を重ね合わせるだけ。
怖がらせない。ここから突き飛ばされるのはごめんだ。けれど、もっと先には進みたい。慎重に、様子を見ながら。
ユーリは嫌がる素振りを見せないが、目も見開いたままだ。無防備に、されるがままになっている彼女につい笑みがこぼれそうになる。
「目ぇ閉じろ」
少しだけ口を離してそう言えば、ユーリは大人しく目を閉じた。
一度キスをしたのに、頬を染めてまた受け入れる。もう良いだろう。逃れるだけのチャンスは十分に与えた。
「…んっ」
再度口を塞いで、今度は彼女の身体を抱きしめてがっちりと固定する。何をされているのかわかるように音を立てて口づけて、官能を誘うように唇を食む。
力が抜けてリヴァイに身体を預けるユーリの唇の間に舌を差し入れ、彼女の舌を掬う。絡めて、しごいて味わう。ユーリが呑んでいた甘い酒に混じって、彼女自身の香りがする。
酒には強いほうだけれど、その香りには酔ってしまいそうだ。
ん、んと漏れる小さな声と誘うような香りに陶酔し、その口内を荒らし回る。どこもかしこも柔らかくて甘くて夢中になる。気がつけばユーリも自分の胸に縋るようにしており、そのことにぞくぞくとしたものが背筋を走る。ユーリの足が震えて辛そうにしているのがわかっても離れる気にならなかった。
ユーリの身体を支えて貪り、ようやく解放したユーリの息は上がっていた。艶かしく濡れた唇は開かれていて、そこからふたりの間を繋ぐ銀糸がたらりと落ちていく。
恍惚とした顔のユーリに舌舐めずりしたい気持ちを抑えた。
「…蕩けた顔しやがって」
「っ、あ、あの…」
「どうした。もう一度っていうお願いならすぐに聞いてやるが」
「ぅあ」
リヴァイの言葉にはっとして、ようやく何かを言おうとしたユーリのおとがいを持ち上げる。涙目で真っ赤になっているのがたまらなくそそる。
このままどこかに連れ込んで抱いてしまおうか。思っていたよりもユーリの抵抗が少ないから、押せばそれも通せるかもしれない。
ユーリが今は他のやつを好きだとしても構わない。身体からの関係でも良いし、最初は寂しさを埋めるためだけの存在にだってなってやる。最終的に、彼女が手に入るのなら。
「リヴァイ、部長…好きな、人が…」
そう紡ぐユーリの言葉は、本気だろうか。これだけして別のやつに惚れているだなんて言うわけがないのに。それとも、もっとしっかりと口説かれたがっているのか。
「まだわかんねぇか? それともとぼけたフリしてんのか?」
ユーリ、と名前を呼べば、ぴくりと彼女の肩が震えた。
いくらだって口説いてやる。毎日だって、落ちるまで。
「お前を見ていた、ずっと。恋人がいると勘違いして、他の男の手でもお前が幸せになってくれればと馬鹿みたいに思っていたが、違うのなら話は別だ」
他のやつになんて渡しはしない。
「片思いを続けるだけなら、大人しく俺に愛されろ」
そう言ってまた口付ける。軽く触れて、またすぐに、深く。
「っ…ま、まってくださ、ぶちょ…」
「リヴァイ。良いから流されてろ」
うまく翻弄されてくれていたのに、理性が戻ってきてしまっただろうか。でももう遅すぎる。今さら逃してなどやらない。
「んぅっ…ちが、んっ…」
唇を塞げば、それを待ち望んでいたかのようにユーリの力が抜けていく。都合の悪い言葉を言えないようにしながら彼女を楽しんでいれば、今度こそユーリの足から力が抜けた。
「ふぁっ…ぁ…」
「っオイ」
慌てて支えると、ユーリ自身も驚いたような表情で焦っている。
「ご、ごめんなさっ…重いですよね…!」
そう言って身を捩るのにまったく力が入りそうにない。
「そんなにやわじゃねぇ。立てなさそうか?」
「い、いえっ…」
否定をするが、やはり無理そうだ。惚れた女がキスだけでここまでなってくれたというなら男として冥利に尽きる
「無理するな。……そんなに気持ちよかったなら何よりだ」
「ッ……」
恥ずかしそうに視線を泳がせたユーリが、しかしまたちらりとリヴァイを見上げた。
「っ、あの、なにか誤解が、あると思うんです」
「誤解?」
ユーリを好きだという事実に誤解もなにもあるものか。眉間に皺が寄るのがわかる。
「はい。あの…」
どこか緊張した様子でリヴァイのシャツを握るユーリを見つめる。今更他の男に惚れているからこんなことはダメだと言われても、引き下がるつもりはない。
「私、…リヴァイ、さんが…ずっと好きでした」
「……は」
一瞬なにを言っているのかがわからなかった。ユーリは視線を逸らして唇を結び、潤んだ瞳で再びリヴァイを見つめる。
「入社してすぐ色々教わって、優しくしてもらって…それから、ずっと…でも、リヴァイさんが部長になった頃くらいから食事とかに誘われることも全然なくなっちゃったので、新人を気遣ってくれてただけなんだな、って思って…」
「それは……クソッ、本当に俺は間抜けだな」
必死な様子で言葉を紡ぐユーリを抱きしめる。
ユーリの惚れている相手が自分なのだとしたら、恋人がいると思っていた以上に馬鹿をしたことになる。しかも、自分の態度が誤解を生んだのだ。
「お前といると我慢がきかなさそうだったから、他に男がいるならまずいと思って誘わなかった。…いもしねぇやつのために2年も無駄にしちまうとはな…」
「私も、勘違い、してて…」
「あぁ、お互い随分と滑稽だ」
大きく嘆息すると、背中におずおずと手が回された。それに応えるようにさらに腕に力を込める。
今日一日の間に目まぐるしく変化した感情も全部独り相撲だった。どうすればユーリを絡め取れるのかばかりを考えていたけれど、最初から、むしろ惚れたときにはっきりと気持ちを伝えればそれで良かったのだ。
自分の馬鹿さにはため息しかでないけれど、それでも今こうして彼女といられることの喜びが勝る。
柔らかくて、それでいて華奢で。愛おしい存在が大人しく腕の中に収まってくれる。
しばらくそのぬくもりを感じてから、ユーリから身体を離す。照れたようにしながらリヴァイを見つめているユーリにもう1度キスを落とした。
「……家まで送る」
「…はい、ありがとうございます」
ふにゃりと笑ったユーリの手を取った。
気持ちは満たされているけれど、できることならもう少し。
今度はどうしたら家に上げてもらえるかを思惑しながら、リヴァイは握る手に力を込めた。