原作以前17話のボツ案2個。この話も結構悩んで最終的にさらっと終わらせることにしました。
最初はナナバさんなしで、18–19話の兵長に泣きつくネタとくっついてた。さすがに兵長に泣きつくには理由がしょぼすぎるかなって思ってボツ。
分離した兵長に泣きつくっていうネタはそういえばいくらか語らせた方が良いかなって思った夢主の家族話とくっつけました。
もう1個は、ナナバさんと別れたあと夢主のリヴァイへの恋心に躊躇いを持つ理由を語らせようとした1カット。なんでボツにしたのかは忘れました…。多分、夢主がぐずぐずと想いをこじらせて話が進まなくなりそうだったからかな…
***
暗く冷えた給湯室でお湯を沸かす。窓からは弱々しい月明かりが差し込んでいる。ぽっかりと抜けた三日月だ。ぼんやりと眺めていると、しゅしゅしゅとヤカンが音を立てた。
ティーポットにお湯を注ぐと、バラバラと茶葉がジャンピングを始める。
手燭に炉の炎も加わったことに、ユーリは安心感を覚えた。
しゅしゅしゅと音を立てたヤカンを手に取り、ティーポットにお湯を注ぐ。バラバラとジャンピングを始める茶葉を眺め、頃合いを見てお茶を注いだ。
お茶を注いだカップを手に、ぼんやりと窓の外を見上げた。窓からは月明かりが差し込んでいる。ぽっかりと抜けた三日月。
カップを持ち上げて、残った分を飲み干した。もうすっかり冷めきっている。
カップを片付けると、窓から青い月が見えた。ぽっかりと抜けた三日月だ。じっと眺めていると、カツリと後ろから音が聞こえた。
「お前か、ユーリ」
「兵長」
一瞬驚いたように目を丸くしたリヴァイだったが、すぐに細める。
「そんな薄着でうろつきやがって…明日鼻水垂らしてようが訓練は甘くしねぇからな」
言葉を額面通り受け取ってしまうと分かりづらいが、心配してくれているのだろう。薄着と言っても、カーディガンも羽織っている。風邪を引くほどに寒々しい格好をしているつもりはないけれど、この上司は意外と過保護だ。
「ふふ…大丈夫ですよ」
そう笑いかければリヴァイは苦々しげに舌打ちをした。そしてユーリに近づく。彼を見上げていると、頬にそっと手が添えられた。
「兵長…?」
「泣いたのか」
「え?」
予想外の言葉に首を捻る。
「泣いてないです」
「そうか? その割には、クソでも漏らしたような顔をしている」
汚い言葉遣いの割に、慈しむように目元を撫でられる。けれど泣いていない、はずだ。
「そんなに情けない顔をしていましたか?」
「ああ。自覚がねぇのが驚きだ。……お前、また噛んだのか」
目元を撫でていた手がするりと移動し、唇に触れる。ぴりっとした痛みに体が震えた。
「噛むのが癖になっているのならやめろ。いずれ噛む唇もなくなるぞ」
癖。そうかもしれない。確かに前も噛んでしまっていた記憶がある。
「うーん、気をつけます」
そう言って笑いかけるが、リヴァイは不愉快そうに舌打ちした。
「チッ…そんな顔をするくらいなら素直に泣けと言ってるんだ」
後頭部に片手が回され、もう片手に手を引かれる。気がつけばユーリはリヴァイの腕の中にいた。
「……ぇ」
ユーリの小さな体をすっぽりと包み込む体は男性にしては小柄だが筋肉質で、女性のものとは全然違う。ゴツゴツとした体。触れたところから伝わる熱を酷く熱く感じる。
「へい、ちょ…」
「何が悲しい」
ぎゅっと抱きしめられる。その力強さとは反対に、脅かさないようにと細心の注意を払われた声音で、そっと尋ねられた。
「何がお前をそんな顔にさせる」
心から案じてくれている響きに、心が揺らぐ。甘えてしまって、良いのだろうかと。
「え、と…」
「あぁ」
先を促すような声に、きゅっとリヴァイのシャツを握る。
「さ、寂しく、て……」
「あぁ」
「……久しぶりに弟とあったら、今が孤独に、思えて」
「……」
「そ、それだけ、です」
それだけ。そうだ。いつもは気を張っていたのが緩んでしまった。それだけなのに、こんな下らないことで上司の、人類の希望の手を煩わせるだなんて。
離さなければ。離れなければ。ーーこの温もりから、離れたくない。
ぐっと胸を押そうとする。
けれどその力はユーリを抱き込む腕より遥かに弱く、ほとんど意味をなさなかった。
「大丈夫、ですから…」
「ユーリ」
柔らかい声音で呼ばれる。見上げるのと同時に、目元にキスを落とされる。
「…ぇ」
「泣くなら俺のもとに来いと言ったはずだ」
そう言ってもう片側にもまたキスを一つ。交互に落とされる唇を受けて、自分が泣いていることに気がつく。
「ぐちゃぐちゃ使えねぇ頭で考えてねぇで、大人しく甘えろ、と言っている」
「へ、ちょ……」
口を開くと、嗚咽が止まらなくなる。リヴァイの胸に顔を埋め、頭を撫でるやさしい手を感じた。
******
「……はい」
柔らかくもどこか諭すような響きに、ユーリはこくりと頷く。
「支えになってくれる人がいれば、と思うけどね」
ぽんぽんと優しく頭に手をおいた後、ナナバは先に戻るよと去っていく。
「……私、は……」
言いかけて唇を噛む。支えたい、いや無理だ。どちらも言葉には出来なかった。
部下思いで優しいあの人が悲しんでいる時、せめて一緒に悲しみ、気持ちに寄り添うくらいはしたい。けれど、自分は一介の部下に過ぎない。それに、自分にはもう守りたい人がいる。そのためになら何もかも、自分の命だって投げ打つことは厭わない。弱くてちっぽけな自分は、まず間違いなくリヴァイよりも先に死ぬことになるだろう。それはまだ先かもしれないし、すぐ近い未来かもしれない。
結局、自分もあの人を悲しませるのだろう。